Works
諧玄文学 / Nonsensophy
意味への従属から解放された、諧謔と玄妙の文学。
- 第1話 『海を折る仕事』 その町では、毎朝六時になると海を畳む習慣があった。漁師たちは水平線の端を丁寧につまみ、波がしわにならないよう四つ折りにして倉庫へ運んだ。海のない昼間、魚たちは…
- 第2話 ※本日より、重力は予約制となります 市役所の掲示板に、重力の利用方法が変更されたことを知らせる紙が貼られていた。来月から地面に立つには事前予約が必要で、無断で着地した場合は三十分ほど浮かされると…
- 第3話 『月の裏側に勤める母』 母は毎朝、月の裏側へ出勤していた。仕事は影の仕分けで、地球から届いた無数の影を、持ち主の孤独の深さに応じて棚に並べるのだという。母の話では、猫の影は人間より重…
- 第4話 図書館で飼われている沈黙について 町の図書館では、長年飼育されてきた沈黙が脱走した。沈黙は体長およそ二メートルで、普段は辞書の棚の裏に潜んでいる。非常におとなしい性格だが、空腹になると近くの会…
- 第5話 『味覚の裁判』 老舗レストランで、塩が砂糖になりすましていたことが発覚した。事件は常連客の「このプリン、少し人生に似ている」という一言から明るみに出た。保健所の調査によると、…
- 第6話 『美術館に展示された雨』 ある美術館が、雨を一滴も使わずに雨の展覧会を開催した。第一展示室には濡れた椅子がひとつ置かれ、第二展示室には雨宿りをしている傘の肖像画が飾られていた。最後の部…
- 第7話 『余白の葬列』 昨日、世界で最後の余白が亡くなった。享年は不明だったが、遺族の話によれば、生まれたときから何も書かれていなかったという。葬儀には三百人ほどの句読点が参列し、読…
- 第8話 『まだ生まれていない老人の手紙』 郵便受けに、百年後の自分から手紙が届いた。封筒は古びていたが、切手には来週発見される予定の鳥が描かれていた。本文には「こちらでは、未来がようやく絶滅しました」…
- 第9話 昨日を返品したいのですが。 サポート:お問い合わせありがとうございます。ご用件をどうぞ。 私:昨日を返品したいのですが。 サポート:かしこまりました。ご注文番号はお手元にありますか。 私…
- 第10話 速報:じゃんけんからパーが引退 本日午前、パーが現役を引退したことが、全日本じゃんけん連盟の発表でわかった。パーは「もう何も包みたくない」と語ったという。会見にはグーとチョキが同席した。グー…
- 第11話 件名:【全社】本日より「お疲れさまです」を廃止します 各位 総務部です。 本日より、社内の挨拶「お疲れさまです」を廃止いたします。 理由は、調査の結果、疲れている者が一人もいなかったためです。全社員が疲れていない…
- 第12話 『月の削り賃』 月の満ち欠けは、毎晩ひとりの男が鉋で削って調整している。男は日没後に屋根へ上がり、長い梯子を月に掛ける。満月から新月までは削る仕事で、新月から満月までは削り屑…
- 第13話 『セルフィー写真館』 私の勤める写真館では、写真に写るのは撮られた側ではなく、撮った側である。だから証明写真を撮りに来た客には、カメラを渡して壁を撮ってもらう。壁はどこでもよい。客…
- 第14話 『世界を旅する骨』 私には、他の人にはない骨がひとつある。小さな魚の形をした骨で、親知らずくらいのサイズだ。この骨の最大の特徴は、体内を少しずつ移動するということ。だから私はこの…