諧玄文学 / Nonsensophy

第10話

速報:じゃんけんからパーが引退

読了目安:130秒

本日午前、パーが現役を引退したことが、全日本じゃんけん連盟の発表でわかった。パーは「もう何も包みたくない」と語ったという。会見にはグーとチョキが同席した。グーは終始固く握られたままで、質問には一切答えなかった。チョキは「これからは私がグーに負け続けることになる。順番がひとつ減るだけで、負けは減らない」と述べ、二本の指で目頭を押さえた。連盟によると、当面の間、じゃんけんはグーとチョキの二者で行われる。勝敗はあらかじめ決まっているため、「最初はグー」の掛け声のあと、参加者は全員グーのまま帰宅することになる。一方、引退の裏側については別の見方もある。世界平和を掲げる慈善団体が、争いと勝敗という概念を根絶するために各地で署名を集め、パーを引退へ追い込んだのではないかという噂である。団体は取材に対し、「私たちは手を差し出しただけです」と答えた。差し出された手は、開いていた。なお、団体の旗には創設時から、開いた手のひらが描かれている。影響はすでに各地で出ている。全国の握手はこぶしを軽く触れ合わせる方式に変更され、駅では、別れ際の人々が互いに拳を突き出したまま、なかなか帰れずにいる。手のひらを見せられなくなったマジシャンたちは、次々と廃業を発表した。ただし、「いただきます」のときだけは、暗黙の了解として手を開くことが許されている。パーの今後について、連盟は「紙として第二の人生を歩む」と説明した。石を包む仕事は続けるが、勝ち負けはもう数えないという。引退会見の最後、パーは記者たちに手を振ろうとして、少し考え、やめた。

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