諧玄文学 / Nonsensophy
第12話『月の削り賃』
月の満ち欠けは、毎晩ひとりの男が鉋で削って調整している。男は日没後に屋根へ上がり、長い梯子を月に掛ける。満月から新月までは削る仕事で、新月から満月までは削り屑を貼り戻す仕事だ。給料は出来高制だが、月はどれほど削っても翌月には元の大きさに戻るため、男の仕事は永久に終わらない。ある晩、男は削り屑を一袋なくした。翌朝、天文学者が観測すると、月は予定より三日分ほど痩せていた。新聞には異常な天体現象と書かれたが、男は単なる材料不足だと説明した。材料を補うため、男は近所の豆腐屋から木綿豆腐を三丁買った。豆腐は白く、適度に柔らかく、遠くから見れば月と区別がつかない。ただし雨に弱かった。梅雨に入ると月の一部が崩れ、夜空から白い水が降った。農家は作物への影響を心配したが、分析の結果、ただの豆乳だったので問題にはならなかった。男は修理費を請求したものの、雇い主からは、月が欠けるのは本来の業務だから欠損に対する補償はできないと返された。そこで男は削るのをやめた。ところが月は毎晩少しずつ欠け続けた。男は三日間観察し、四日目に梯子を片づけた。翌月、満月はいつもどおり昇った。男は失業したが、なぜか毎月十五日になると銀行口座に削り賃が振り込まれた。振込人の欄には、丸い空白がひとつあった。