諧玄文学 / Nonsensophy
第13話『セルフィー写真館』
私の勤める写真館では、写真に写るのは撮られた側ではなく、撮った側である。だから証明写真を撮りに来た客には、カメラを渡して壁を撮ってもらう。壁はどこでもよい。客は納得して一枚撮り、出来上がりに自分の顔を見て帰る。家族写真は手間がかかる。全員が写るには全員が一度ずつシャッターを押さねばならず、四人家族なら四枚の写真になる。並んで写ることはできない。並びたければ、四枚を切って糊で貼る。店ではその貼り合わせを「集合写真」と呼び、別料金を取る。婚礼では新郎が新婦を撮り、新婦が新郎を撮る。写真には撮った本人しか写らないが、どちらの写真にも「相手を見ている顔」が残るので、客はこれを気に入る。困るのは店主だ。店主は三十年、客の代わりにシャッターを押してきた。店の前に飾ってある見本写真は、全部が店主の顔である。七五三も入学も成人も還暦も、ガラスの中で店主が同じ顔をして並んでいる。客はそれを見て、ああ上手な店だ、と言って入ってくる。先月、店主が自分の写真を撮ろうとした。店の真ん中に三脚を立て、タイマーを仕掛けて、椅子に座った。出来上がった写真には、三脚が写っていた。