諧玄文学 / Nonsensophy
第7話『余白の葬列』
昨日、世界で最後の余白が亡くなった。享年は不明だったが、遺族の話によれば、生まれたときから何も書かれていなかったという。葬儀には三百人ほどの句読点が参列し、読点たちは終始うつむいていた。句点だけは棺の前で立ち止まり、これ以上先へ進むことを拒んだ。弔辞を任された一冊の辞書は、壇上に立つなりすべての文字を脱ぎ捨てた。会場には長い沈黙が流れたが、誰もそれを沈黙とは呼ばなかった。沈黙という言葉には、まだ少し意味が残っていたからだ。火葬場では余白が燃えず、代わりに参列者たちの名前が次々と灰になった。帰り道、人々は自分が誰だったのか思い出せなくなったが、不思議と道に迷う者はいなかった。翌朝、新聞の一面には何も印刷されていなかった。編集長はその出来栄えに深く感動し、今年度の文学賞に応募することを決めた。しかし、応募用紙には作品名を書く欄がなかった。それが最後の余白の遺言だったのかどうか、今となっては誰にもわからない。