諧玄文学 / Nonsensophy

第4話

図書館で飼われている沈黙について

読了目安:100秒

町の図書館では、長年飼育されてきた沈黙が脱走した。沈黙は体長およそ二メートルで、普段は辞書の棚の裏に潜んでいる。非常におとなしい性格だが、空腹になると近くの会話から助詞だけを食べる習性がある。その日も館長が「私は昨日、駅で友人に会いました」と話そうとしたところ、「私昨日駅友人会いました」になってしまった。館長はすぐに異変に気づいたが、すでに沈黙は玄関から逃げ出していた。警察が捜索を始めると、町のいたるところで不自然な静けさが見つかった。パン屋では焼きたての食パンが一切音を立てず、交差点では救急車のサイレンが小声で謝罪していた。やがて沈黙は公園のベンチで発見された。隣には、三年前に失踪した比喩が座っていた。比喩は「私は今、冷蔵庫のような気持ちです」と供述したが、警察は意味がわからなかったため、そのまま帰宅させた。沈黙は無事に図書館へ戻されたものの、翌日から館内の本が一冊ずつ話し始めた。最初に口を開いたのは『日本の野鳥図鑑』だった。「実は、魚の方が好きです」。館長は静かに図書館を閉め、自宅のチルド室に入っているマグロの刺身に合いそうな日本酒を探した。

 

この話をシェアする

← 一覧へ戻る