諧玄文学 / Nonsensophy
第5話『味覚の裁判』
老舗レストランで、塩が砂糖になりすましていたことが発覚した。事件は常連客の「このプリン、少し人生に似ている」という一言から明るみに出た。保健所の調査によると、塩は三年前から砂糖の容器に潜伏し、甘味料として勤務していたという。塩は容疑を否認し、「甘いものになりたかっただけです」と供述した。裁判では検察側が「被告には明らかに塩分がある」と主張したが、弁護人は「人間だって多少はしょっぱい」と反論し、傍聴席から拍手が起こった。証人として出廷した胡椒は、終始くしゃみをしていたため証言能力を疑われた。裁判長は判決を言い渡そうとしたが、突然、自分の舌が辞職届を提出した。舌は「これ以上、他人の味を決める仕事はできません」と述べ、口から出て行った。判決は翌日に延期されたが、翌日になると裁判所全体が巨大な茶碗蒸しになっていた。裁判長は具材のひとつとして再出廷し、塩に対して懲役三年の甘口刑を言い渡した。刑務所では毎朝、甘い言葉を聞かされるという。事件から一週間後、問題のレストランには新しい調味料が届いた。ラベルには「愛」と書かれていた。料理長が少し舐めてみると、まだ発見されていない素数の味がしたという。