諧玄文学 / Nonsensophy 投稿作品

『音の置き場所』

読了目安:100秒

音は、聞いた人の身体から取り出して、別の場所に置くことができる。そう発見したのは、食卓で味噌汁をこぼした日のことである。拭き取ろうとした布巾の上に、昨夜の笑い声がひとつ落ちていた。私はそれを小瓶に移し、棚に置いた。翌朝、家族が味噌汁を飲むと、「今日はなんだかおいしい」と言った。出汁はいつもと同じである。それから、心が少し動いたときには、なるべく音を拾うことにした。瓶は増え、棚が狭くなったので、ひとつを友人に渡した。数日後、友人は空の瓶を返しに来た。「君の声が入っていたから、返しておくよ」と言った。「でも、今も普通に話しているじゃないか」と尋ねると、友人は少し考え、「これは返事をするための声で、瓶に入っていたのは、君がいないときに思い出す声だよ」と答えた。私はその区別を記録しようとしたが、帳面にはどちらも「声」としか書けなかった。以来、誰かに瓶を渡すときは、持ち主の名前を底に書くことにした。先日、私の名前が書かれた瓶が玄関に置かれていた。誰が持ってきたのかはわからない。蓋を開けると、家の中から私の笑い声が聞こえたので、私は瓶を棚に戻した。家族には、「今日は少し賑やかだね」と言われた。私は、「そうだね」と答えた。棚にはまだ、空きがある。

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