諧玄文学 / Nonsensophy 投稿作品

『気持ちの受取窓口』

読了目安:120秒

伝えたかった気持ちは、相手に届くと重さが変わる。郵便局ではそうした荷物を通常の手紙とは別に扱っていた。窓口の秤に載せると、好きだという気持ちは三グラム、会いたかったという気持ちは七グラム増えた。理由を尋ねても、局員は「受取人の分が加算されます」と答えるだけである。ある日、ひとりの女性が小さな封筒を持ってきた。中には、以前伝えようとして結局言えなかった言葉が一行入っていた。女性は切手を貼り、宛名を書き、何度も封筒を裏返した。「今からでも届きますか」「住所が正しければ」と局員は答えた。女性が帰ったあと、局員は封筒を仕分け機に通した。機械は宛先を読み取ったが、差出人の欄で止まった。そこには女性の名前ではなく、「あのときの私」と書かれていた。規定では差出人不明の郵便物は保管することになっている。局員は封筒を棚に置いた。翌日、同じ女性がやってきて、昨日の手紙を取り戻したいと言った。まだ発送されていないと聞き、彼女は安心したようだった。局員は棚から封筒を出したが、重さを量ると、昨日より三グラム軽くなっていた。女性は封を切らずに受け取り、しばらく眺めてから鞄にしまった。帰り際、彼女は窓口に向かって何か言った。局員は聞き取れなかったので、受取人不在の印を押した。夕方、郵便局の前には、宛名のない封筒が一通だけ届いていた。差出人の欄には、局員の名前が書かれていた。

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