動的平衡
名詞 重要ワード どうてきへいこうDynamic Equilibrium
動的平衡(どうてきへいこう、英:Dynamic Equilibrium)とは、絶えず変化し続けることによって、全体として安定を保っている状態。静止による安定ではなく、運動による安定。変わらないために、変わり続けること。
一般的な定義〔通説〕
もともとは自然科学の用語。化学においては、正反応と逆反応の速度が釣り合い、見かけ上は変化が止まって見えるが、内部ではミクロな反応が絶えず進行している状態を指す。 これを生命論へと昇華させたのが、生物学者・福岡伸一氏である。生命とは、分子が絶え間なく分解され、また合成される「流れ」そのものであり、その流れが淀みなく続くことによって、個体という秩序が保たれている——福岡はこの動的な均衡状態を、生命の本質として提示した。細胞は日々入れ替わり、タンパク質は分解され再構築されるが、外見上の「わたし」は持続しているように見える。
変わり続けることが、恒常性である〔Moonpedia的解釈〕
哲学的パラドックス「テセウスの船」——すべての部品を交換した船は、まだ同じ船か——を例に出すならば、動的平衡はこれに明快な答えを返す。同じであるために、部品は入れ替わり続けなければならない。 生命とは「変わらない存在」ではなく、「変わり続けることで保たれている構造」である(→ホモ・フルーエンス)。川が、一瞬も同じ水でないのに川であり続けるように。炎が、一秒も同じ分子でないのに炎であり続けるように。恒常性とは静止ではなく、運動の別名である。
変化を止めることは、安定ではなく、死である。
動的平衡は、この辞書の時間である
Moonpediaのあらゆる基盤概念は、動的平衡を時間的な様式として共有している。 輪郭はつねに引き直され、真理はたえず組み変わり、世界線は切り取るたびに編み直される。集合的輪郭(→コロニー理論)は収束することなく拡張し続け、それでも「集合的輪郭」というひとつのまとまりであり続ける。これらが固定されないのに崩壊しないのは、すべてが動的平衡の上にあるからである。 伝統が「絶えず新しいものである」のも同じ原理による。同じものを継承するだけでは古び、途絶える。永く続くものは、変化し挑戦し続けることによってのみ、その同一性を保つ。守ることと変えることは、ここにおいて矛盾しない。
平衡は、静止点ではなく綱引きである
動的平衡は、二つの逆向きの力が拮抗するところに立ち現れる。合成と分解。拡張と収束。ナラティブ・グラビティーが世界をロングテールへ引き伸ばす力なら、文化の平均化はそれをベルカーブへ引き戻す力である。この綱引きのどちらか一方が勝てば、世界は暴走するか硬直する。両者が拮抗し続けるかぎり、世界は動きながら、崩れない。 ハーモニズムが「宇宙レベルの調和は常に成立している」と言うとき、その調和とは、静止した完成ではなく、この絶えざる綱引きのことである。世界調和が“達成する”ものではなく“気付く”ものであるのは、それが到達点ではなく、いま現に続いている運動だからである。
「万物は変化する」という性質だけが変化しない。